COLUMN

サルに涙する——

「込められた意味」をCOLUMNで紐解く

監督はなぜ主人公をサルとして描いたのか?サルに隠された秘密

今作の監督であるマイケル・グレイシーはこの映画を作り上げるにあたり、自分たちが素晴らしい物語を持っていることを自覚しつつ、それを斬新な方法で表現しなければならないというプレッシャーを感じていた。
「物語もオリジナリティに溢れていますし、ロビー自身も唯一無二の人物です。そこで物語の描き方、撮影手法、どこにどういう風にスポットライトを当てるかという点においても、クリエイティブでユニークなものにしたかったのです」

グレイシーはロビーに会いに行く毎に、彼が何度も自身のことをサルと表現することに注目した。そしてその会話の中で、彼をサルとして描くアイデアが生まれた。
「ロビーは、『僕はサルのように後ろで踊っている』とか、『僕は完全に心ここにあらずだったのに、まるでサルのようにパフォーマンスするためにステージに引っ張り上げられた』などと口にするのです。しばらくしてから、"それならばいっそのこと、映画の中のロブをサルとして描くのがいいのではないか?"と思ったのです。何しろ当時のインタビューで彼は実際に自分のことをサルのように捉えていたのですからね」

例えば目の前にロックスターが現れると、その場のエネルギーは一変して、まるですべてが彼らを中心に回っているように感じることがある。グレイシーはサルにも同じように人を魅了する強烈さがあることに気づいた。
「あるシーンにサルを登場させると、彼が何も話していなくてもついつい引き寄せられてしまうものです。それはスターであることの定義と似ていると言える。我々はその人から目が離せなくなるのです。だから私にとっては、劇中に登場するサルは単にロビーが自分自身を見る姿としてではなく、すべてのシーンに目が離せない本物のスターを作り出すというもうひとつの要素があるのです。Wētā FX社の視覚効果技術でこの映画の主役を創り上げたが、彼らの仕事ぶりと情熱は、私がこれまで見た中で最も感動的なものでした。ロブは有名になる遥か昔から、そこにいるだけでいつも注目の的になる存在でしたから」

ロビーをサルとして描くクリエイティブな選択から想定外に生まれたもうひとつの利点は、スクリーンの中で動物たちが困難に立ち向かう姿を見る時の人間の自然な反応だった。
「私たちの心は無邪気な動物たちの姿に引き寄せられますよね。動物が苦しんだり、傷つく姿を見ると胸が痛むものです。だから、サルに見立てたロビーが自分自身を傷つけたり、何かに絶望する状況といった苦痛を感じる辛い瞬間を見ることに強く気持ちをかき乱されてしまう。彼への思いがより一層強くなるのです」

人間誰もが抱えている自身のコンプレックスをサルで表現する。この斬新な手法を通し、グレイシーは観客に感じてほしいことがあると語る。
「他の何者とも明らかに違う世界で様々な経験する一匹のサルの姿を見守ることに、我々は本能的なものを感じるのです。そしてひとりの観客としてそのサルに共感を覚える。というのも、とどのつまり我々は皆、自分と他者の間に違い感じ、自分が本当は何者なのか自問自答しているからです。特に10代の頃は鏡に映る自分を見て、『自分はこれじゃない、あれでもない』と思うものです。だから、ロビーがサルというキャラクターを通じて、自分が何者であるかに苦悩する様子はとても親しみやすく、素晴らしいアイデアになりました」

人間誰もが抱えている自身のコンプレックスをサルを通して表現する。グレイシーの斬新なアイデアが、観る者に共感を生み、そして最後には感動の渦に包みこむ―